波形が見えるかどうかで雲泥万里
電気工作において、特定の回路ポイントの電圧や電流を調べるにはデジタルテスターがあれば十分です。ですが、電圧が時間とともにどのように変化しているのか――こればかりはテスターでは把握できません。
たとえば、Vpp(ピーク・トゥ・ピーク)0〜5V、デューティ比50%の矩形波(方形波)を出力している回路を、テスターで測定したとします。表示されるのは「2.5V」という数値だけ。
これでは、本当に矩形波が出ているのか、ただの直流2.5Vなのかすら分かりません。
そんなときに力を発揮するのがオシロスコープです。
波形を目で確認することで、0V〜5Vの矩形波が交互に出ていることが一目瞭然になり、テスターが示していた「2.5V」はその平均値にすぎなかったのかと、納得もできます。
このように、パルス信号や変化のある電圧を扱うようになると、テスターだけでは限界が見えてきます。
電気工作を続けていく中で、「やっぱりオシロスコープが欲しい…」と感じる瞬間は、きっと誰にでも訪れるでしょう。
オシロスコープの基礎知識
「波形が見える」ことで電気工作の世界が広がります。
オシロスコープとは?何ができるの?
オシロスコープは、電気信号の変化を波形として視覚的に表示できる測定器です。
時間軸に沿った電圧の変化をリアルタイムで見ることができ、周期・周波数・電圧レベルの確認などに使用されます。
特に電子工作では、回路の出力が正しく動作しているかを確認する場面が増えてきます。
たとえば、センサーの信号やマイコンの出力、PWM制御など、「変化する電気信号」を相手にする作業では、オシロスコープがあるだけで確認精度と安心感が段違いです。
電子工作に向いているオシロスコープのタイプは?
オシロスコープにはさまざまなタイプがありますが、趣味の電子工作では以下のようなモデルが人気です。
- ポケットタイプ/小型タイプ
⇒ 携帯性が高く、最低限の測定に十分対応。 - USBタイプ
⇒ パソコンに接続して使うタイプ。波形の記録やスクリーンショット保存がしやすい。 - ベンチトップ(据え置き型)
⇒ 高性能・高価格帯。予算に余裕がある人や、より高度な測定をしたい人向け。
業務用途向けの高精度・高帯域なモデルもありますが、趣味用途ではコストとのバランスが最優先。
最近は数千から1万円台で買えて、実用に耐える性能があるデジタルオシロスコープも多く、個人でも手が届きやすくなっています。
「最初の1台」に必要なスペックは?
最初の1台としてオシロスコープを選ぶなら、必要最低限の性能に絞って選ぶのが賢明です。
以下の項目を意識すれば、失敗のない選択ができます。
■ チャンネル数(1ch/2ch/4ch)
- 1ch(1入力):信号を1本だけ測る。とりあえずの確認に便利。
- 2ch:2か所を同時に比較したい場面で活躍(マイコンの出力とセンサーの入力など)。
- 4ch:I2CやSPIなど多ピン通信の解析にも対応。個人用途では過剰気味だが、あれば便利。
▶ 2ch以上があると後悔しにくいですが、予算や用途次第で1chでもOKです。
■ サンプリングレート(MSa/s)
信号の「細かさ」を決める性能。
最低でも20〜50MSa/s程度あれば、電子工作でよく使うPWM信号やセンサ波形の観察には十分。
■ 帯域幅(MHz)
「どれくらい高い周波数まで正確に測れるか」の目安となるのが帯域幅です。
趣味の電子工作で扱う信号は比較的低周波なものが多く、20〜50MHz程度の帯域があれば、大体の用途に対応可能です。
極端な話、200kHz程度のローエンド・モデルでも「あるのとないのとでは大違い」なレベルで、信号確認の幅が一気に広がります。
ちなみに、より精度の高い測定を行いたい場合は、測定対象の周波数の3〜5倍の帯域幅があることが理想とされています。
例えば、1MHzの信号をきれいに観測したい場合は、最低でも5MHz、できれば10MHz以上の帯域があると安心です。
オシロスコープは不可視の信号を「視る」ための“目”
オシロスコープがあると、テスターでは測りきれない信号の動きが一気に見えるようになり、トラブルシューティングでも圧倒的な差が出ます。
最初は「なくてもなんとかなる」と感じるかもしれませんが、LEDの点滅の裏にあるPWM信号や、I/Oピンの切り替わりタイミングを見たくなる場面は、思いのほか早くやってくるものです。
まずは、「必要最低限の性能を備えた2ch・ポータブルタイプ」から始めてみるのがおすすめです。
きっと、使いこなす楽しさと、製作中の安心感を実感できるはずです。
オシロスコープのタイプ別おすすめモデル
コスパ重視型:初心者でも手が届く手軽なローエンドモデル
2,000円前後で購入できる、コストパフォーマンスに優れたオシロスコープは、電子工作初心者に特におすすめです。
このタイプは必要最低限の機能のみを備え、帯域幅も200kHz程度にとどまります。
中には組み立てキットの状態で販売されているものもあり、自分で組み立てる必要があります。
例えば、中華メーカー製でコスパの良さが人気の1ch小型オシロスコープ「DSO138」は、キット版と完成版の両方が販売されています。
ただしこの手のキットは、SMD(表面実装部品)が多く含まれており、電気工作初心者には組み立てが難しい傾向があります。
そのため、購入する際は完成品を選ぶのが無難です。特に、「完成品だと思って買ったらキットだった」というミスを防ぐため、購入ページの確認はしっかり行いましょう。


また、こうした安価なモデルは電源やプローブが付属しない、あるいは簡易的なプローブ(例:ワニ口クリップ式)しか付属していない場合があるので、別途用意する必要があるかもしれません。
一方、後継機種の「DSO154Pro」はAliExpressなら4,000円台、Amazonでも5,000円台の価格ながら性能が大きく向上し、帯域幅18MHzに対応しています。


これらローエンドモデルは、操作がシンプルで扱いやすく、必要最低限の機能が揃っているため、初めてのオシロスコープとして非常におすすめです。
また、後に本格的なモデルを購入した場合でも、サブ機として十分活躍できるため、長く使い続けられる点も魅力です。
ポータブルタイプ:2chを備えた少し上のオシロスコープ
ポータブルタイプのオシロスコープは、軽量で持ち運びやすく、現場作業や移動先での使用に最適です。
5,000円程度の価格帯になると、バッテリー内蔵・2ch対応の製品が選べるようになり、帯域幅も1〜10MHzと実用レベルに達してきます。
例えば、デジタルオシロスコープ SCO-2-10M は、帯域幅10MHz・2チャンネル対応ながら、AliExpressでは4,000円台、Amazonでも5,000円台から入手可能という、非常に手頃な価格が魅力のモデルです。
価格を抑えつつも、趣味の電子工作に十分な性能を備えており、初めてのオシロスコープとしてもおすすめです。


このクラスのモデルは、電子工作や電子回路の点検など一般的なホビー用途においては、性能・価格ともにバランスが取れており非常に使いやすいです。
注意点としては、初期不良には対応してくれる場合もありますが、長期的なメーカーサポートはあまり期待できません。そのため、内蔵バッテリーが劣化した際には、自分で分解して交換する必要が出てくることもあります。
このようなメンテナンスに抵抗のない方には、特におすすめできるタイプです。
据え置き型:高性能を求める方におすすめ
据え置き型オシロスコープは、高い計測精度と拡張性を求めるユーザー向けです。
高サンプリングレートと広帯域幅を備えたモデルが多く、詳細な波形解析や高速信号の測定が可能です。
例えば、OWON SDS1104は、電子工作愛好家に人気のモデルで、約3万円という価格ながら、4ch入力と十分な基本性能を備えています。
プロジェクトの品質向上を目指す方や、長期的に安定して使える機種を探している方にぴったりです。

私は、OWON SDS1104のOEMで中身はほとんど同じのHANMATEK DOS1104を所持しています。
USB接続型:PCと連携して使いたい方向け
USB接続型オシロスコープは、PCやノートパソコンと接続して使用するスタイルです。
本体は非常にコンパクトながら、PCの大画面で波形の詳細確認やデータの保存・分析が可能になります。(専用ソフトが付属しています)
例えば、Hantek 6022BE は、帯域幅20MHz、サンプリングレート48MSa/s、2チャンネル対応という十分な性能を備えたUSB接続型オシロスコープです。
PCと接続して使用するタイプで、Windows対応の専用ソフトウェアを使えば、波形の表示やデータ保存、簡易的な解析も可能。
コンパクトながら実用性が高く、AliExpressやAmazonの海外直送品なら9,000円台から入手可能なため、コストパフォーマンスに優れたモデルとして、電子工作の入門者から中級者にまで人気があります。


このタイプは本体にディスプレイを持たない分、価格も比較的リーズナブルで、初心者にも導入しやすいのが特徴です。
一方で、動作にはPCが必須となるため、据え置き前提での使用が前提となります。
持ち運び目的にはあまり向かないので、自宅で腰を据えて作業する方にはおすすめです。
まとめ:オシロスコープがあると電気工作は一段レベルアップする
テスターだけでは捉えきれない「信号の動き」や「波形の変化」を目で見て確認できる――
それがオシロスコープを使う最大のメリットです。
LEDの点滅の裏にあるPWM信号や、マイコンのI/Oピンの切り替わり、三相交流の波形、電源ラインのノイズなど、趣味の電気工作でも波形を観測したくなる場面は意外とすぐにやってきます。
そんなとき、手元に1台オシロスコープがあるだけで、トラブルの切り分けや動作確認が一気に捗ります。
かつては個人で持つには高価すぎたオシロスコープも、今では2,000円台から手に入る簡易モデルも登場し、初心者でもぐっと手に取りやすくなっています。
まずは「必要最低限の性能を持った2chポータブルモデル」などから始めてみるのがちょうど良い選択です。
オシロスコープを使いこなせるようになると、電子工作の楽しみ方がもう一段階深くなります。
一度使い始めてその便利さを体感すると、『もっと早く買っておけばよかった!』と後悔する声も多い道具です。興味があるなら、ぜひこの機会に導入を検討してみてください。